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山行活動部 / 海外委員会
インスブルック会議とチロル宣言
日本勤労者山岳連盟・国際部

2003年2月

 UIAA(国際山岳連盟)の専門委員会の一つである、登山委員会を中心に5年前から構想さ れていたもので、このほど、UIAA、ドイツ山岳会、オーストリア山岳会、チロル州、イン スブルック市などが、銀行・放送会社を含むいくつかの企業の協力も得て、“山岳スポー ツの将来”会議を2002年9月にインスブルックで開催した。登山委員会によって、UIAAの 全参加メンバーに招待状が発送され、過去と現在の一流クライマーから、彼らがその発展 の跡を見てきたことからの、このスポーツについての彼らの思想と将来についての意見 を集約することが目指された。
 世界中から100人以上のエキスパート、山岳団体代表者および著名なクライマー(R.メス ナー、D.スコット、R.レンツラー、C.ボニントン、フーバー兄弟など多数)がこの会議に 参加した。彼らの課題は、これらの考え方と言葉を実際のものにし、山を目指すすべての 人を鼓舞し、山々と山岳地域住民に活力をもたらす方法を見出すことにあり、この課題は チロル宣言の採択に結実された。下記は、UIAA機関誌2003年第1号の英文からの仮訳であ る。(労山国際部注)

(仮訳)
山岳スポーツにおける最良の実践についてのチロル宣言
(The Tyrol Declaration on Best Practice in Mountain Sports)
2002年9月6日〜8日にインスブルックで開催された「山岳スポーツの将来」会議で採択

 “あなたの限界を伸ばし、
      高みを目指すあなたの精神と目標を押し上げよう”
 ("Stretch your limits, 
          lift your spirits and aim for the top")

世界中で、数百万の人々が登山、ハイキング、トレッキング、ロッククライミングを 楽しんでいる。山岳スポーツは多くの国において、日常生活においての重要な一要素にな っている。
 山岳スポーツほど、幅広い刺激的な範囲を有している他の活動は存在しない。それは人 々に、個人的な目標を実現し、意義ある生涯活動を追究する機会を与える。山中や岩の上 で行動的でありたいとする動機は、健康の享受、運動の爽快さ、自然および社会的な刺激 に触れることから、探検や冒険のスリルまでも含まれている。
 2002年9月8日にインスブルックで開催された、「山岳スポーツの将来」会議で採択さ れた「山岳スポーツの最良の実践についてのチロル宣言」は、山岳スポーツの最良の実践 の指針を提供するための一連の諸価値と提言を示すものです。これらは、下記に見るよう に、ルールとかこと細な指針というものではなく、
1.山岳スポーツの今日的な根本的な諸価値を定義し、
2.行為に当っての諸原則と諸規範を包含し、
3.さまざまな状況での意思決定の倫理的な基準を明確化し、
4.山岳スポーツを評価しうる道義的諸原則を社会に提供し、
5.このスポーツの諸価値と道徳的諸原則を初心者に紹介する、というものです。
 チロル宣言の目指すものは、レクリエーションや個人的な成長のために、社会発展・文 化的理解・環境の自覚などが深められるように、山岳スポーツが有する本来的な潜在力が 発揮されるように助力することにある。締めくくりとして、チロル宣言は、これまで文章 化されてこなかった、このスポーツの固有かつ伝統的諸価値と諸規範を取り上げ、それら をわれわれの時代の要求に合致させるべく敷衍したものです。チロル宣言が拠って立つと ころの根本的な諸価値は、ハイカーであれトレッカーであれ、スポーツクライマー、ある いは自己の限界を高みに押し上げようとする登山者であれ、山岳スポーツに係わっている 世界中のすべての個人に当てはまるようになっている。仮に、いくつかの行為の指標が、 少数の選ばれた者のみの関連事項ではあっても、チロル宣言を構成している多くの提言は、 山岳スポーツの世界全体に向けて発信されている。これらの提唱が、山岳スポーツの未来 を担う若い世代に受け入れられることを、特別に私たちは願っています。

チロル宣言は、次のことを呼びかけています:
・危険を承認し、責任を請け負うこと
・あなたの目標が、あなたの技能と用具に見合ってバランスが保たれていること
・フェア−な方法で行動し、公正に報告すること
・ベストな実践になるよう努力し、勉強を決してストップさせないこと
・他人との間で、互いに寛容で、思いやり、助け合うこと
・山や岩壁の野生と自然な状態を保護すること
・地域社会とそれらの持続可能な発展を支援すること

チロル宣言は、次のような価値体系に立脚している:
人間的尊厳−人間は、尊厳と諸権利において、生まれながらにして自由で平等であり、互いに兄弟愛をもって対することが前提である。男女同権に特別の注意が向けられねばならない。
生命、自由および幸福−譲ることができない人間的な諸権利として。そして、山岳地帯のコミュニティーの諸権利保護を支援するための山岳スポーツの特別の責任を伴うこと。
自然の健全性−世界中の山岳および岩壁の生態的な価値と自然的な諸特徴を保護することに関与すること、このことには、危険に瀕している植物相と動物相の種とそれらの生態システムと地形を保全することが含まれる。
連帯性−山岳スポーツに参加するにあたって、チームワーク、協調、相互理解を促進させ、性別、年齢、国籍、能力レベル、社会的あるいは人種的出身、宗教および信念などによる障壁を克服するするための一つの契機として。
自己実現性−山岳スポーツに参加するにあたって、重要な目標に向かっての意義深い進歩を達成し、個人的な充実感を得るための一つの機会として。
信頼性−山岳スポーツにおいては、達成した事跡を評価する際には誠実さが根底的なものであることを承認すること。もし独断が信頼にとって変わってしまったなら、クライミングにおける成果を評価することは不可能になるだろう。
卓越性−山岳スポーツに参加する際に、それ以前には達成できなかった目標のために努力し、より高い基準を設定する一つの契機として。
冒険性−山岳スポーツにおいては、判断、技能、個人責任における危険の管理は根底的な要素の一つであることを承認すること。山岳スポーツの多様性は、すべての人に技能と危険がバランスされている状況での自分自身の冒険を選択することが許容される。

チロル宣言の条項
第1章 個人責任
定言
 登山者とクライマーは、自己のスポーツ行為を、事故の危険が存在し、外部助力が不可 であるかも知れない場所において、実行する。この意味において、彼らは彼ら自身の責任 においてこの活動を実行し、彼ら自身の安全に責任をもつ。個人としての行動が、周囲の 人たちや環境を危険に陥らせるものであってはならない。

第2章 チーム精神
定言
 チームのメンバーは、グループ全体の諸利益と諸技能がバランスを保てるように協調す る用意が無くてはならない。

第3章 クライミング及び登山コミュニティー
定言
 私たちは、山や岩で出会うすべての人に、同じ程度においての尊厳を負っている。たと え隔絶され、緊張を強いられるような諸状況においても、私たちは、自分自身が対処して ほしいと望むほどに、他人に対処すべきであるることを忘れるべきではない。

第4章 外国訪問
定言
 私たちは、外国諸文化のゲストとして、常に自己を礼儀正しく保持し、私たちのホスト としてのその地の人々に対して節度を保持しなくてはならない。私たちは、神聖な山々や 他の宗教的な場所を尊重し、そこの地域経済や人々の利益になるような助力に努力もする であろう。 外国諸文化を理解することは、クライミング経験全体の一部分でもある。

第5章 山岳ガイドおよびその他のリーダーの責任
定言
職業的山岳ガイド、その他のリーダーおよびグループメンバーは、互いの個別的な役割を 理解し、他のグループや個々人の自由や諸権利を尊重しなければならない。そのときの目 標にいたる必要事項、ハザードおよび危険を認識しなければならない、ガイド、リーダー およびグループメンバーであるためには、必要な技能や経験を保有し、用具を点検し、天 候や諸状況をチェックしなくてはならない。

第6章 緊急事態、危篤状態および死亡
定言
 緊急事態や重大事故に係わる諸状況に対処するためには、山岳スポーツに参加するすべ ての人は、危険やハザード、技能・知識・用具の必要事項などを明確に理解していなけれ ばならない。すべての参加者は、緊急時や事故の際は、他人を救助し得る状態に自己を置 かねばならず、また、悲劇の結果に直面する用意が無くてはならない。

第7章 アクセスおよび自然保護
定言
 山や岩場への責任ある方法でのアクセスの自由は、根本的な権利であると私たちは確信 する。私たちは、自分たちの活動において、環境に敏感な方法で実行しなくてはならず、 自然の保全について学習を経ているものでなくてはならない。私たちは、クライマーが自 然保護団体や関係当局と合意しているアクセスに係わる諸制限や諸規則を尊重する。

第8章 行動様式
定言
 経験したことで得られた知識の内容や、一つの問題をいかに克服するかということは、 それらを私たちが解決できるかどうかということよりもはるかに重要なことである。私た ちは、足跡を残さないように努力する。

第9章 初登
定言
 ルートや山での初登は、創造的な行為である。それは、少なくもその地域における伝統 に則した公正なスタイルで実行されたものでなければならないし、その地域のクライミン グ・コミュニティーに対する責任と将来のクライマーのニーズを示すものでなければなら ない。

第10章 スポンサーシップ、宣伝および広告
定言
 スポンサーと選手との間の協力は、山岳スポーツのベストな権益に奉仕し得る、プロフ ェッショナルな協力関係である。それは、経験から習得しえた方法で、メディアおよび公 衆の双方を啓発したり衆知させせたりするすべての局面での、山岳スポーツ分野の責任で もある。


付属文書1
チロル宣言の定言及びガイドライン

第1章 個人責任
定言
 登山者とクライマーは、自己のスポーツ行為を、事故の危険が存在し、外部助力が不可 であるかも知れない場所において、実行する。この意味において、彼らは彼ら自身の責任 においてこの活動を実行し、彼ら自身の安全に責任をもつ。個人としての行動が、周囲の 人たちや環境を危険に陥らせるものであってはならない。
1. 私たちは、自分自身の、あるいはチームの実際の技能と山の諸条件に応じて、私たちの目標を設定する。登攀を差し控えることは、正当なる選択であるべきである。
私たちの目標に適応したトレーニングを実施すること、登攀あるいは山行を注意深く計画し、必要な準備をすべてやり遂げることなどを確かめます。
毎回の山行時に、相応しい用具を準備したか、用具の使用方法を習得しているかを確かめます。

第2章 チーム精神
定言
 チームのメンバーは、グループ全体の諸利益と諸技能がバランスを保てるように協調する用意が無くてはならない。
1. チームの各メンバーは、チームメンバーの安全のために配慮をし、その責任を引き受ける。
2. チームメンバーは、彼/彼女の健全な存在が危険にさらされている際は、単独で残されることがあってはならない。

第3章 クライミング及び登山コミュニティー
定言
 私たちは、山や岩で出会うすべての人に、同じ程度においての尊厳を負っている。たとえ隔絶され、緊張を強いられるような諸状況においても、私たちは、自分自身が対処してほしいと望むほどに、他人に対処すべきであるることを忘れるべきではない。
1. 他人を危険に陥らせないために、また、潜在する危険を他人に警告することで、やれることはすべてなすこと。
誰一人として差別されてはならないことを保証すること。
外部からの訪問者として、その地の諸ルールを尊重する。
私たちは、必要とする以上には他人を遅らせたり、迷惑を及ぼさない。私たちは、パーティーをできるだけ早く通過させるようにします。私たちは、他人が待機しているようなルートでは独占しないようにする。
私たちの登攀記録は、細部に渡って実際の諸状況を忠実に反映したものです。

第4章 外国訪問
定言
 私たちは、外国諸文化のゲストとして、常に自己を礼儀正しく保持し、私たちのホストとしてのその地の人々に対して節度を保持しなくてはならない。私たちは、神聖な山々や他の宗教的な場所を尊重し、そこの地域経済や人々の利益になるような助力に努力もするであろう。
外国諸文化を理解することは、クライミング経験全体の一部分でもある。
1. ホスト国においては、常に人々を親切に、寛容に、敬意を持って相対すること。
ホスト国において設定されたいかなる登攀諸規則も、厳格に保持される。
2. 訪問する国の人々と環境についての私たちの理解をさらに高めるために、旅行に出発する前に、その国の歴史、社会、政治的機構,美術、宗教などについて知識を得ておくことが望まれる。もし政治的に不安定状況にある場合は、公式な助言を求めること。
3. ホスト国の言語についての一定の基本的な能力、あいさつの仕方、依頼と感謝、曜日,時間、数などを習得しておくことは賢明である。このようなわずかな努力が、コミュニケーションの質をいかに増大させるかを、いつもながら驚きを持って体験しているところである。また、このような努力で、私たちが文化の違いを理解することに役立つことになる。
4. あなたの登攀技術を、関心を抱いているその地の人に分け与える機会に目をつぶるべきではない。ホスト国クライマーとの共同隊は、経験交流のベストな設定です。
5. 私たちは、あらゆる努力を尽くし、ホスト側の宗教的な感情を傷つけるようなことは避けること。例えば、宗教・社会慣習上の理由で、肌を露出することが許容されていないような地では、肌を見せてはならない。仮に、他の宗教のある表れが、私たちの理解を超えているような場合は、私たちは寛容に対処し、その判断を無視するようなことはしない。
私たちは、必要に応じてその地の住民に可能なあらゆる助力を惜しみません。時として、遠征隊の医師が、重病人の生命を決定的に左右する状況に置かれることがある。山岳地域社会の経済的利益のために、可能な限りにおいて、その地の物品を購入し、諸サービスの利点を享受すること。
私たちは、持続可能な開発に役立つような諸施設を導入・助力すること、例えば、実習訓練や教育の機会、あるいは環境を損なわない商業的な企業で、山岳地域社会を励まします。

第5章 山岳ガイドおよびその他のリーダーの責任
定言
 職業的山岳ガイド、その他のリーダーおよびグループメンバーは、互いの個別的な役割を理解し、他のグループや個々人の自由や諸権利を尊重しなければならない。そのときの目標にいたる必要事項、ハザードおよび危険を認識しなければならない、ガイド、リーダーおよびグループメンバーであるためには、必要な技能や経験を保有し、用具を点検し、天候や諸状況をチェックしなくてはならない。
1. ガイド・リーダーは、顧客あるいはグループに対して、当該登攀の固有の危険性とその場の実際の危険のレベルを知らせ、彼らが相応な経験者であれば、判断過程で彼らに関与する。
2. 選定されたルートは、顧客あるいはグループがエンジョイでき、経験がさらに深められ得るように、彼らのの技能と経験に則したものであるべきである。
3. 必要があれば、ガイド・リーダーは、彼あるいは彼女自身の能力の限界を指摘し、適切なの場所において、顧客あるいはグループを、より技術が高い同僚に委ねることとする。もし顧客あるいはグループにとって、危険や危害の恐れがあまりにも大きく、撤退か他の判断がなされるべきと確信したときは、その旨を指摘することが、彼らの責任となる。
4. エクストリーム・クライムや高所登山の状況にあっては、ガイド・リーダーが差し伸べられる助力の限界について、顧客やグループの一人一人が完全に知ることができるようにガイドあるいはリーダーは、入念に知らしめねばならない。
地域のガイドは、外部からやってきた同僚ガイドに対し、その地域の特徴や現在の状況について通知する。

第6章 緊急事態、危篤状態および死亡
定言
 緊急事態や重大事故に係わる諸状況に対処するためには、山岳スポーツに参加するすべての人は、危険やハザード、技能・知識・用具の必要事項などを明確に理解していなければならない。すべての参加者は、緊急時や事故の際は、他人を救助し得る状態に自己を置かねばならず、また、悲劇の結果に直面する用意が無くてはならない。
1. 事故に遭遇した他人に助力することは、私たちが山において自ら設定した目標に到達すること以上の絶対的な優先事項である。人命を救助すること、あるいは負傷者の健康の損傷を減ずることは、初登の厳しさよりもはるかに価値ある事柄である。
2. 緊急事態にあって、外部からの救助が不可能なとき、そして私たちが救助できる立場のときは、事故者に対し、私たちができ得るあらゆる助力、私たち自身が危険に陥ることなく実行できる助力を与える用意が無くてはならない。
3. 重傷者や危篤状態にあるものは、できるだけ苦痛を和らげるようにし、救急救命助力が提供されねばならない.
4. 遠隔地で死体を収容することが不可能な場合は、死者を特定するいかなる症状とあわせて、その場所を可能な限り正確に記録しなければならない。
5. カメラ、日記、手帳、写真、手紙、その他の小物の個人的所有物は、保護され、遺族に引き渡されねばならない。
あらかじめの遺族の承諾無しに、死者の写真が公表されるようなことがあってはならない。

第7章 アクセスおよび自然保護
定言
 山や岩場への責任ある方法でのアクセスの自由は、根本的な権利であると私たちは確信する。私たちは、自分たちの活動において、環境に敏感な方法で実行しなくてはならず、自然の保全について学習を経ているものでなくてはならない。私たちは、クライマーが自然保護団体や関係当局と合意しているアクセスに係わる諸制限や諸規則を尊重する。
1. 私たちは岩場や山の環境、野生動物を保全するための諸措置を尊重し、すべてのクライマーの仲間が同じように行動するように奨励する。騒音を発生させないことで、野生動物減少の心配を減ずるために努力する。
可能であれば、道路における車両走行を減少させるために、私たちは目的地まで公共交通機関や、あるいは車両プールを利用する。
土地の侵食と野生動物への悪影響を避けるために、登高中あるいは下山中に登山道を外れないようにし、野生地では、最も環境を傷めないルートを選択する。
岩場を生息場所とする生き物の繁殖期や巣作りの時期には、特定時期の接近についての諸規制を尊重する。私たちが、繁殖活動のいかなる表れにも気付いたときは、直ちにそのことを同僚クライマーに知らせて、彼らがその巣つくりの場所から離れられるようにする。
初登時においては、希少植物種や希少動物種のバイオトープを危険にさらすようなことがあってはならない。設定しようとする、また再設定しようとするルートや再設定されつつあるルートにおいては、私たちは、環境へのインパクトが最小になるような予防策を講じなければならない。
古くからのボルトが残置されているということで人気のある地域のもたらす、幅広い影響といことを慎重に考慮する必要がある。増加されたその数は、アクセス諸問題を引き起こしている。
私たちは、損害を最小にするような安全技術を用いて、岩の損傷を最低に留める。
私たちは、自分たちのゴミを街に持ち帰るだけでなく、同時に、他の人たちの残したゴミも拾い上げるようにする。
2. 衛生的な施設が存在しないときに排便する際は、住居、キャンプサイト、運河、河川、あるいは湖沼などから充分な距離を保つことにし、生態系へのダメージを避けるための必要なすべての手段を尽くす。私たちは、他の人々の美的感覚を傷つけないよう心がける。非常に多くの人が訪れるところで、生物学的処理施設が低レベルの場合は、クラマーは彼らの排泄物を担ぎ下ろす面倒を自ら引き受ける。私たちは、可能な限り廃棄物を少なくし、ゴミを適切に処理することで、キャンプサイトを清潔に保つ。固定ロープ、テント、酸素ボトルなどすべての登攀用具類は、山から撤去されねばならない。
私たちは、エネルギー消費量を最小に留める。特に木材資源が不足している国では、森林の更なる低下に結びつくような行動はとらない。森林が危機的状態にあるような国では、私たちは遠征隊全員の食事の用意に要する充分な燃料を携行することが要請れている。
ヘリコプター使用のツアーは、それが自然と作物に有害であるような地では、最小限に留められねばならない。
オーバーアクセス問題については、土地所有者、関係諸当局、諸団体のすべての関係者が満足し得る解決策を見出すように話し合うべきである。
私たちは、これらの諸規則を実行する積極的な一部分になることを引き受け、とりわけて、それらを公衆のものにし、必要なインフラストラクチャーを作り上げるようにする。
3. 山岳諸団体や他の保護グループと共に、私たちは、自然の動植物生息地と、その環境を保護することにおいては、政治的レベルでも積極的に行動する。

第8章 行動様式
定言
 経験したことで得られた知識の内容や、一つの問題をいかに克服するかということは、それらを私たちが解決できるかどうかということよりもはるかに重要なことである。私たちは、足跡を残さないように努力する。
1. 私たちは、すべての登攀においてその独自的な特性を保持すること、とりわけ歴史的な意義を有する特性が保持されることを目指す。このことは、クライマーは既存のルートにおいては,固定安全用具を増加させてはならないということを意味している。
例外は、初登者たちとの合意も含め、新しいギヤーに置き換えたり、既存のギヤーを取り去ったりすることで、固定保身用具のレベルを変更することでの、その地域のコンセンサスが存在する場合である。
私たちは,地域的な諸伝統を尊重し、自分たちの見解を他のクライミング文化様式に押し付けることはしないと同時に、彼らの流儀が私たちに押し付けられることにも同意しない。
岩と山は冒険のための一つの限られた資源であるが故に、さまざまな関心を有するクライマーや未来の多世代の人たちと共有されなければならない。私たちは、未来の世代の者が、この限られた資源の中で、彼ら自身の 新しい 冒険の誕生を望むであろうことを明白に理解している。私たちは、未来からの機会を奪ってしまわないような方法で、岩場や山でのルートを開発する。
ボルトが許容されている地域では、ルートや岩場区分を維持すること、または冒険のための撤退を許容するためや、多様なクライミングの関心を尊重するため、ありのままの岩場にボルトを打たないようにすることが推奨される。
自然のままでの安全なルートは、レクリエーション的なクライマーにとっては、ボルトがある岩場と同様に、楽しくて安全なルートになる。ほとんどのクライマーにとっては、自然のままでの安全なルートを見極めることを学ぶことが可能だが、技術がさらに習得されれば、同じような安全性の下で、追加的な冒険や豊富で無理の無い体験でもって教育されねばならない。
グループ同士間の関心事について不一致が生じた場合は、アクセスが脅かされることがないように、クライマー同士の対話と交渉を通じて、意見の相違を解決しなければならない。
商業的圧力によって、個人あるいは地域のクライミングの規範価値が影響を蒙ることが決してあってはならない。

第9章 初登
定言
 ルートや山での初登は、創造的な行為である。それは、少なくもその地域における伝統に則した公正なスタイルで実行されたものでなければならないし、その地域のクライミング・コミュニティーに対する責任と将来のクライマーのニーズを示すものでなければならない。
1. 初登は、環境的に見て確かなものであり、地域の諸ルールや山域所有者の要望、さらには地域住民の精神的な諸価値に合致したものでなければならない。
私たちは、ホールドで削ったり、ホールド追加などで岩の表面を傷つけることはしない。
アルパイン地域においては、初登はオン・リードでのみ実行されねばならない(上述のような事前の設定無しに)。
地域的な諸ルールをすべて尊重しつつ、初登者のルートにおける固定安全具のレベルを決定することが初登者に委ねられる(8章の提案を考慮に入れて)。
土地管理者あるいは地域アクセス委員会などによって、野生あるいは自然保全地域に指定されている区域では、アクセス保全のために、ボルトの数は最小限に留め置かねばならない。
人工登攀具使用での初登時には、ドリルホールと固定具設置は、最小限度に保たれるべきである(絶対に必要な場合を除き、ビレー・アンカーではあってもボルトは避けるべきである)。
アドベンチャー・ルートでは,どうしても必要な場合かつ常に地域的諸ルールに従った場合のみ、除去可能な安全具としてボルトの使用が可能であるにしても、可能な限り自然のまま残すものでなくてはならない。
隣接ルートの独自的な特徴が損なわれるようなことがあってはならない。
初登の通告時には、可能な限り正確な詳細を報告することが重要である。事実を確かめる証拠が無い場合は、当該クライマーの正直さと誠実性が根拠とされる。
高所山岳は限られた資源である。私たちは、最良のスタイルでそこを使用するべく、クライマーたちを特別に奨励します。

第10章 スポンサーシップ、宣伝および広告
定言
 スポンサーと選手との間の協力は、山岳スポーツのベストな権益に奉仕し得る、プロフェッショナルな協力関係である。それは、経験から習得しえた方法で、メディアおよび公衆の双方を啓発したり衆知させせたりするすべての局面での、山岳スポーツ分野の責任でもある。
1. スポンサーと競技者間の相互理解は、共通の目標を明確にするのに必要である。山岳ポーツの多くの側面は、競技者とスポンサー双方の協力の機会を最大限に発揮させるめに、双方の独自的な専門諸知識を明確に一致させることを要請している。
技術レベルの保持と向上のためには、クライマーはスポンサーの継続的な助力に依存している。この理由から、たとえ一連の失敗の後ではあっても、スポンサーは彼らのパートナーを助力し続けることが重要である。クライマーの活動にスポンサーの圧力が影響するようなことがあってはならない。

すべてのメディアにおいて恒常的な登場が確立されるためには、コミュニケーションの公正な経路が組織され、維持されるべきである。

クライマーは、事実に立脚した自己の活動を報告するために努力を傾注しなくてはならない。正確な報告書は、そのクライマーへの信頼性を高めるだけではなく、同時に、彼のスポーツへの社会的評価をも高める。
競技者は、チロル宣言に記述された、道徳、スタイル、社会的および環境についての責任をスポンサー及びメディアに対し提示したことに、全面的に責任を負う。