避難小屋のある山を訪ねて No.39 上州武尊山
上州武尊山先々月号の三ツ岩岳では何とか雪に埋まった小屋に入れたのだが、それができなかったこともある。2年前の4月に行った上州武尊山の場合がそうだった。

頂上付近が結構険しいが、周囲にスキー場が多いので比較的短時間でそれなりの雪山を楽しめるところだと聞き、同じ会の新井さんと中年男2人連れで歩いてみた。武尊牧場スキー場から出発して武尊避難小屋で1泊、翌日山頂を越えて川場スキー場に下山という計画だった。ところが、小屋に着いてみると尖がった屋根が雪上に出ているだけ。何とか中へ入ろうと、スコップで入口あたりを掘り続けたものの、入口上の看板までが精一杯で諦めてしまった。もっともこの時はテントを持参していたので、それでも困ることもなかったのだが。

翌日は無風快晴で暑いくらいの好天。予定通りの雪稜漫歩を楽しむことができたのだが、思えばそれが新井さんとの最後の山行になってしまった。と言うのも彼はそれ以降、八ケ岳の麓に別荘を建てるという夢に没頭しはじめてしまったからだ。その後、山登りからも会からも遠ざかり、それでも時折顔を会わせると「そのうち来てもらえるようにするから」と律儀に言い続けている。山仲間との別れにも様々あるが、あの春の雪稜漫歩のようにハッピーエンドでよかったと思う。

それはさておき、屋根の天辺しか見えなかったあの小屋は、雪のない状態ではどんなふうになっているのだろう。いまさらながら気になって、この6月再訪してみた。

単独ゆえにタクシー代を節約して、武尊口バス停からトボトボ歩いていると、軽のワンボックスの若者が乗せてくれた。自分もこれから上州武尊山へ行くと言う。結局、スキー場より上部にある東俣沢駐車場まで乗せてもらい予定よりはるかに時間短縮できたばかりか、結果的に飲み水を節約できたのもありがたかった。武尊避難小屋には水場がないからだ。

1時間余りで小屋に着いた。赤いトタン屋根がそのまま地面に降りて壁を兼ねているので、正面からはニ等辺三角形に見える小さな小屋である。中は手前半分が土間で、奥が板間になっているが4人位が横になってギリギリという感じだ。トイレなどの設備もなく、メルヘン風な外見とは裏腹に簡易なシェルターの役割に徹している。また築30年も経て老朽化が進んでおり、お世辞にもきれいとは言えないし、ドアは上部の滑車が一つだめで、きちんと閉まらない。

季節柄かやぶ蚊が多いのに閉口し、蚊帳代わりも兼ねて板間に小型テントを張ると一杯になったが、幸い同宿の士がなくノビノビやらせてもらえた。翌日は夜中からの雨が朝まで残り、ガスがかかった中を出発。山頂をかなり下ってから空が晴れ渡り、懐かしい展望を再びというわけにいかなかったが、さわやかな空気の中を宝台樹スキー場へと下山した。なお、道中の尾根から少し下ったところに手小屋沢避難小屋(92年改築)がある。底の平らな横倒しのドラム缶という感じで、4〜5人で一杯だろう。近くに沢が流れ、水を取れる。

堀内 一昭
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