夏山での事故を防ごう
矢崎 辰雄
いよいよ夏山シーズンの到来。いつもより日にちをかけて、より高い山を目標に、どのように楽しもうかとあちこちで計画が練られていることだろう。夏山の目標を決めそれが達成できたとき、大きな喜びと充実感をもたらしてくれる。その半面、事故が多くなるのもまた、夏山シーズンなのである。
労山内においては、2001年度、302件の「事故一報」が「遭対基金」管理委員会に報告が寄せられている。そのうち、50〜60歳が124人で41%を占めているが、いわゆる中高年といわれる40〜69歳までの層をひとくくりにすると、事故者は219人になり、その割合が72.5%に達する。事故の直接原因の状況を分類すると、転倒が50.8%ともっとも多い。

疲労をためない対策と工夫を
この事故内容は、疲労による平衡感覚の低下が原因とも思える。中高年になると、青年期と違って行動体力や生理機能が衰えてくる。疲労回復にも時間がかかることを考慮して、余裕をもった計画にしなければならない。
過去の事例を検討すると、計画そのものが事故の要因になっていると思えるものものも少なくない。目標のコースのグレードや全体的な環境に対して、参加者の力量や装備・食料の計画が十分なものになっているか検討することが大切だ。さらにまた、山行中最良の体調を維持するために、いつどんなふうに休憩や食事をとるかを工夫することなども重要だ。
疲労をためないための行動計画が事故防止にとってきわめて重要なのだが、運動生理学の初歩的原則が十分に生かされていない。それは、労山結成当時の40年以上も前から明らかになっていたことなのである。

事故防止は登山口での準備体操から
昨年度、登山中に心臓病や循環器系の病気で死亡した人は全国で101人に達した。登山やハイキングは、ほかのスポーツに比べて運動時間が長時間にわたるのが特徴である。私の所属するクラブでは、山行時に心拍数を測っているが、軽いハイキングでも、ちょっと登りがきついと思うところでは、医学的な安全基準を超える心拍数を示すときがある。このように、登山やハイキングは運動強度の高いスポーツであるという認識が必要だ。しかし、観光旅行やリクレーションの延長のような感覚で、登山やハイキングをおこなっていないだろうか。身体運動の側面からハイキングや登山を意識することが極めて少ないのが現状である。
ほかのスポーツでは、準備運動をするのが当たり前になっているのに、登山口で準備運動をするパーティーは稀である。これを改善し、登山口でストレッチなどをおこなうのが労山の常識となるように努力したいものである。登山・ハイキングを運動強度の高いスポーツとして、まず意識すること。 それが必ず事故防止につながるものと確信する。

(全国連盟遭難対策委員)
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