21世紀の登山と地方連盟の役割
岡田伊佐男
登山の多様化が言われてから久しい。特にこの10数年、中高年登山者の激増とともに、アルパインクライミングの影は薄くなり、大多数はハイキング志向。労山もその例外ではない。そういう自分も還暦を過ぎてみると、いつまで大自然の岩場に憧れ、風雪の雪山に夢を追い求めることができるのか、いささか気になるところである。

ところで、労山は誕生以来、ハイキングからヒマラヤまで幅広い会員の要求を実現するために様々な取り組みをしてきた。全国規模の登山祭典をはじめ、登山学校、登山研究集会、遭難対策基金制度の創設、海外登山ツアー、労山全国隊による高所登山の実施と高所登山学校の開設、雪崩防止講習会などの実施は、労山の技術を一流のものに高め、今では日本の登山界に大きな位置を占めるまでになった。特に自然保護の分野では30年来清掃登山を実施し、ごみの持ち帰り運動を全国的に定着させ、山のトイレ問題に先鞭をつけるなど、先進的な活動を続けている。

しかし、個々のクラブや会活動は様々で、アルパイン志向、ハイキング志向、あるいは総合山岳会と、多様な形態がある。要は既成の枠にとらわれず、活動内容を会員一人ひとりが自分の意思で選択し話し合って決めることである。その例は登山時報に時々紹介される記事で見ることができるが、問題はその登山時報を読んでいる人が全体の2割もいないという現実である。また全体の4割ほどの会が有料購読者0となっている。これでは情報を共有することは不可能だし、進んだ発想を取り入れ、マンネリを脱することもできない。

「登山時報」は労山の機関誌である。会の機関誌が会員の心を結ぶ絆であるように、全員の購読が望ましい。情報の正確な提供と共有こそが民主主義の基盤なのだから、組織強化中期構想がどこまで理解されるのかも、その一点にかかっているように思う。

日本は北から南まで2000kmに及ぶ島国、風土や気象条件の差異は著しい。当然そこで行われる登山やハイキングの内容も異なり、そこに地方連盟の果たす大きな役割がある。季節毎のハイキング、夏山、冬山の取り組み、登山教育、遭難対策など、基本は同じでも具体的には地域毎に違った対応が求められるからだ。

今年になって、守屋益男新会長が全国連盟の事務所ビル購入を提案され論議を呼んでいる。これは労山の財産保全の一方法というだけでなく、活動の拠点である事務所を自前で持つ意義は大きい。現在の事務所が狭いのは一目瞭然だが、会議だけでなく宿泊するスペースがあれば、もっと威力を発揮するだろう。地方にメリットがないという声もあるが、まず中央を固めることにより、その効果は地方に波及すると思う。

(全国連盟副会長)
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