全国連盟第25期第2回評議会が、2月15日と16日に東京で開かれ、42地方連盟から評議員48人、全国理事・役員29人が出席した。評議会は、「夢とロマンを持って、労山倍加運動に挑戦しよう!」というスローガンからなる理事会報告をもとに討議されたが、論議は主として"遭対基金資産の適正保全のための新事務所購入"問題と「労山組織強化中期構想作業委員会の報告」をめぐって行なわれた。
しかし、次回総会までの1年間の全国討議を提案した遭対基金資産の適正保全と新事務所購入にあたっての「遭対基金定款の一部改定(案)」は、評議員から「ここまでは前回の評議会で確認済の内容だから、今回の評議会で採択に付したらどうか」との提起があった。会議最終の諸提案事項の採択ではこの「遭対基金定款の一部改訂(案)」も含め、いずれも賛成多数で採択された。
開会宣言ののち、守屋益男会長が開会挨拶。冒頭、昨年1年間と今年、評議会までに山岳遭難で亡くなられた15人の仲間と、昨年8月、死去された豊田重彦元理事長に哀悼の意を表して、参加者全員で黙祷をささげた。
守屋益男会長は開会のあいさつで、「労山の未来展望」とする小論文を配付して、労山のこれまでの歩みとともに、個人会員制やワンセット方式、遭対基金の資産保全を目的とした新事務所購入などについて語るとともに、今後の組織倍加運動への取り組みを訴えた。守屋会長の"私見"とした内容を文書で評議員に配布した扱いについて、評議員から「執行部と異なる私見は困る」との異議が出されたが、守屋会長は「執行部を後押しする気持ちからの意見なのでご理解を」と表明した。
評議会は、議長団に山本辰平(関東)、岡田伊佐男(九州)の両副会長を選出して議事を進めた。
西本理事長の理事会報告
理事会報告の冒頭、西本武志理事長は「社会不安が広がる昨今ではあるが、これまでも労山の歴史は順風満帆ではなかった。先達の苦労を思えば、閉塞感の支配する時代のなか、内に引きこもることなく組織倍加運動を展開していくことが大切」と語り、評議会の課題を明らかにした。
(1)組織倍加計画をもち、続出する遭難事故をいかに減らすか、21世紀最大の課題である山岳自然保護をどうすすめるか、そして、なによりも登山団体存立の基盤である、登山の質をどう高めるかなどの課題を探求しあい、意思統一すること。
(2)決算・予算を決めるとともに、遭対基金資産の積み立て金の保全を主目的とした不動産取得に関する案件や中期構想作業委員会の報告などを中心に論議をいただきたいこと、などについて報告した。
野口信彦事務局長からは、活動報告と方針提起がされた。野口事務局長は活動報告のなかで、加盟団体数の増加に反して会員数が減少傾向にあることを報告した。また、高所登山学校での死亡事故について触れ、毎年実施され実績を積み上げてきた高所登山学校で受講者の死亡事故は初めてのことであり、主催団体としての責任を感じ「アイランドピーク事故調査委員会」を設置して、原因究明をすると報告した。
労山組織強化中期構想作業委員会の報告を石川友好理事(財政部長・作業委員会座長)が行い「複式企業会計方式を公益法人会計方式に改めたい」との会計処理規定の一部変更提案がなされた。あわせて、02年度の一般会計・特別会計および遭対基金の決算報告と03年度の予算案の提案もなされた。
「遭対基金の資産の保全」と新事務所取得は1年間の討議を
斎藤義孝副理事長からは「新事務所取得問題」について「現在の事務所は狭く、資料、書籍等の保管場所としてすでにパンク状態であること、さらに遭対基金の資産保全を考えた場合、その3分の1程度を土地・建物一体の不動産にするのが適当ではないか」と提案に至る経緯と考え方の説明がなされた。
これに対し「事務所が狭いなら、広い事務所を借りればいいのでは」あるいは「遭対基金余剰金のうち、運営資金との線引きはどうなっているのか」などの意見が出された。
また、「遭対基金資産の保全と不動産購入は、前回の評議会での合意事項。それを踏まえた上での議論を」「事務所が狭いことと、資産を不動産で保全することは、別問題。もともとの議論は、資産を現金で3億も抱えていること自体、異常だということ。おおもとに話を戻したほうがよいのではないか」との意見も出された。
不動産取得に肯定的な意見も出され、「遭対基金の剰余金での不動産取得は基本的に賛成」「不動産取得については賛成だが、資産保全の方法として考えるならば、不動産化は最小限にとどめるべきだ」、賃貸物件の借り換えに関しては「東京の不動産物件は総じて高く、たとえ賃貸でもかなりの高額になる」といった意見も出された。
全国理事会はこれらの討論を受け「新事務所取得問題」については、地方連盟で1年間の討議をお願いし、理事会からは各地方連盟に出向いて話し合いの場を持つ意向であるとした。その上で「新事務所用不動産購入基準(案)」を1年間かけて全国討議し、第26回総会での合意を得たいとの確認がされた。
中期構想と個人加盟制について
中期構想作業委員会は、今回の評議会に報告を提出した。従って理事会では、評議会に提出された報告を受けて、また評議会での論議を踏まえて具体化された案を来年2月の総会に提案することになった。この2つの課題は、今後、1年間かけて全国討議をすることになったが、多くの評議員から様々な角度・立場からの意見が出された。
出席者からは、それぞれの課題はいずれも結びついているものであり、総合的な判断と具体案が必要である。現在のような抽象的な報告内容ではなく、労山全体の発展方向をイメージ化する作業が必要だとの意見が出た。
理事会からは再度、具体化された案を検討して提案する旨が答弁された。
自然保護にかかわる課題
山岳自然をとりまく状況は21世紀登山界の最大の課題であり、労山は各地の運動を積極的に推進するとともに、当面、3年間かけて「自然保護憲章」作成に取り組むことにし、10月の「全国登山者自然保護集会」では、各地の山岳自然保護の取り組み報告・交流とともに、これらの課題を討議することが提起された。
これについては、他団体との協力共同の関係を強めながら論議する必要性や、憲章という言葉に「重い」「固い」という感じがするなどの意見が出され、いずれもそれらの意見を尊重しつつ、論議を進めようとの答弁があった。
また、「自然保護ニュース」第1号が配付されたが、今後、全国連盟の他のセクションでも、直接、担当者同士のネットネットワークを広げ、日常的な連絡・連携を強めることの重要性も強調された。
賠償責任保険について
山行中、落石事故などで他の登山者に怪我を負わせてしまった場合に対応するためにも、遭対基金管理委員会では、損害保険会社などとのタイアップをはかりながら、これを遭対基金のオプションとして考え、今後、重視して検討していくという報告がされた。
安全対策基金の地方連盟への
補助金支出について
03年度の安全対策基金からの地方連盟やブロックへの補助金は、昨年については各ブロックへの支出だったが、03年度からは、雪崩講習会、救助隊交流会や登山学校補助などと細分化されることになった。これに対して「少額を支給されるよりブロックに支出されたほうが活用できる」などの意見も出された。結果として原案通り可決されたが、登山学校補助については、要望があれば用途を制限しないことが確認された。
また、障害者団体の連盟費減免措置、女性委員会活動など、多岐にわたる意見が出された。理事会は連盟費については、規約を厳守する立場を改めて明確にしながらも柔軟対応をしたいとの答弁があり、女性委員会活動の報告が「理事会報告」から洩れたことについて、率直に反省すると答弁した。
いずれも全国理事会が04年の総会までに具体的な提案をすることと、全国各地の会員による討議が必須であるとの意見が出された。
討論の中では、大阪の評議員の「大阪府民に責任を持った、安全で楽しい山行を提供していくというのが、大阪労山の基本的な考え方」「事故を起こさない山行ができるような、全府民向けセミナーとか学校をどんどん作っていくということが、大阪労山の中期構想に対する基本的な考え」との意見に代表されるように、中期構想、不動産取得、個人加盟も含めて、日本の登山界発展にかかわるあらゆる課題に応えられる労山になることが、客観的にも求められているということが鮮明になった討論であったといえる。
討論のまとめに立った西本武志理事長は、提案され、討議された課題を遂行する決意や抱負とともに「確かに困難は多いし、つらいことも多くて、成果もなかなか目に見えない状況がいま起きていますけれども、やはり希望の灯をともして、全国各地の仲間が皆で一丸となって労山の発展のために尽くす。日本の登山者全体にいい影響を及ぼしていく力になれる、そういうことのための運動なんだということを、お互いに確認しあっていけば、そんなにギスギスせずに、楽しい運動ができていくんではないかと思います。ありがとうございました」と述べた。
評議会は、提案された事項に加えて遭対基金定款の一部改定も含め、いずれも圧倒的多数で採択され、拍手で承認するなどの結果となった。
今評議会で採択に付されて賛成・承認された全国理事会原案等は、次の通り。「全国理事会報告」「総会定数及び選考委員会の選出に関する提案」「遭対基金定款一部改正に関する提案」「会計処理規定の一部変更に関する提案」は賛成多数で可決した。「02年度一般会計、特別会計報告、予決算報告及び監査報告」「02年度遭対基金会計決算及び監査報告」「03年度一般会計案、特別会計予算案」「03年度遭対基金会計予算案」についても、いずれも賛成多数で承認された。なお、「遭対基金定款一部改定に関する提案」は、評議員からの動議にもとづいて採択に付されたものである。
閉会の挨拶に立った宮澤健二副会長は「これから、今日話された内容を地方に持ち帰って論議を深めていただき、来年の全国総会を成功させるために皆さんのいっそうのご奮闘をお願いする」と述べて、評議会は成功裏に終了した。(事務局長・野口信彦)
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