愛知県連が2002年度にかかげた自然保護活動の年間方針は、(1)6月の鈴鹿山系清掃登山の成功、(2)秋の各会合同交流清掃登山の実施、(3)水質検査の継続、(4)講演会の開催、(5)各会の自然保護活動の発展援助などでした。これらの諸課題のうち、最も大きな課題であり、県連の自然保護活動推進の基軸である「鈴鹿山系清掃登山」のとりくみを中心に報告します。
多くの共感をえて 過去最高の規模
愛知県連盟の鈴鹿山系清掃登山は昨年30回目を迎えました。三重県勤労者山岳連盟と共催でとりくみ、6月2日、御在所岳に1075人、藤原岳に281人、計26山岳会1356人が参加し、過去最高の規模になりました。
労山各会の会員が誘った人たちのほかに、新聞で知って参加した人たち、登山用具店から勧められたパーティー、当日登山口での呼びかけに応えて加わったグループなど、多くの人たちが参加しました。また、藤原岳に入山していた岡山の倉敷労山の仲間たちも協力してくれました。
翌朝の新聞は御在所岳の様子を「午後零時半から、参加者は5つのルートにわかれてゴミを拾いながら下山した。知多半島まで見渡せる好天で、新緑や遠景を楽しみながらの登山道の清掃となった。集合場所の御在所ロープウエー山麓駅の駐車場に集められたゴミは、昨年より50キロほど少ない205キロで、参加者は『マナーがよくなり、ゴミは年々減っています』と話していた」(読売新聞)と写真入りで報じました。
出足早い自治体要請
各会の自然保護担当者の最初の会議を3月14日におこない、鈴鹿清掃登山愛知県実行委員会の立ち上げを確認しました。
最初の行動は三重県連盟代表とともに、三重県庁、菰野と藤原の町役場、御在所ロープウエイ会社を4月9日に訪ねることでした。協力要請の内容は、後援名義と知事・町長のあいさつ、集会とゴミ計量の場所確保、ゴミの回収、ゴミ袋や手袋の提供、机・椅子の貸し出しなどです。いずれも好意的な応対で、了解を得られました。
社会的な意義の理解を土台に
4月11日の第1回実行委員会では、2002年の清掃登山が第30回目という大きな節目を迎えることから、自然保護を訴える世論をいっそう大きくする機会にすること、自らの足元での行動を通して国際山岳年を実り豊かにすること、この2つをとりくみの大きな柱にして提案し討論しました。
ところが討論してみると各会の担当者からは、「なぜ毎年、御在所岳と藤原岳ばかりに登るのか」「ゴミがあまり落ちていない。もっとゴミの多い別の山へ行ったらどうか」など、最も基本的な疑問が次々に出て、すでに理解が広がり定着していると考えていた鈴鹿山系清掃登山の意義や目的、位置付けが希薄になっていることに気づかされました。この現状に対して自然保護部は、その後の理事会や実行委員会であらためて討論を提起し、県連盟の機関紙「労山愛知」に「なぜ毎年、御在所岳と藤原岳なのか」を掲載するなど、清掃登山の社会的役割を明らかにするよう努めました。
同紙4月号は「清掃登山の目的は、登山者の立場からゴミを拾う行動を通して、自然保護の大切さを広く社会に訴えることです。そのためには、登山者の自覚を基礎に大きな持続的な運動と、それを推進する運動体が不可欠です。私たち労山は、ある年はあの山々、次の年はこの山々と力を分散させず、御在所と藤原に毎年集中することによって、年々参加者を増やし、関係自治体の姿勢を前進させ、社会的アピール性を高めてきました。秋の清掃登山は、いくつかの山岳会ごとに協力していろいろな山々に運動をひろげつつも、6月第1日曜日の鈴鹿清掃登山は、社会的アピールの場として、定時定点で継続し、いっそう大きく発展させることが大事ではないでしょうか。自然保護や環境問題は人類の大きな課題ゆえに、世論づくりの長期的な努力が必要です。一人ひとりの拾うゴミが少なくなっても、自然保護の第一歩としての清掃登山の役割はますます大きくなっていくと思われます」と会員に呼びかけました。
幅広く市民への呼びかけを重視
春合宿のあと、ポスターが実行委員有志の手でできあがりました。5月9日、三重県、菰野・藤原両町、御在所ロープウエイ会社、近畿鉄道、三岐鉄道、三重交通バスを訪問して、ポスターの掲示を要請。スポーツ施設や登山用具店には、各山岳会が手分けして訪問し、ポスターやチラシを置いてほしいとお願いしました。こうした活動の中から、先に紹介したように登山用具店に勧められて参加したパーティもあったのです。
中日、朝日、読売、毎日の各新聞社社会部を5月14日に訪ね、清掃登山の意義を説明し、記事の掲載を要請しました。地元有力紙の中日新聞でのエピソード---ハイヒールで颯爽とあらわれた若い記者が応対、こちらも意気込んで説明しました。ところが彼女いわく「私、山に登ったことがないの。清掃登山のイメージって、全然浮かびませんワ」。これにはガックリしましたが、そのあと「写真をいただけません?」と話が続き、さっそくこれまでに撮った数葉の写真を届けた次第でした。その結果、同紙は5月18日付で「清掃登山、来月で30回」「平気でごみ捨てないで」と4段の記事を写真つきで載せました。その日から翌日にかけて、私の家に20本余も問い合わせの電話があり、清掃登山への関心の高まりを実感することになりました。
各会の意欲的な取り組み
毎年、独自にリーフレットをつくって参加者を募るなど、積極的なとりくみを行っている「半田ファミリー山の会」は、バス2台99人が子供連れでにぎやかに参加、その3分の2が会員外でした。花の百名山の一つである藤原岳で、藤原町と協同して自然保護パトロールにとりくんでいる「ふわく山の会」は、「清掃登山」ののぼりを作って100人を越す人たちが参加しました。こうした山岳会の熱心な活動が県連盟全体の活動をリードしています。
環境問題への努力を提起した山頂アピール
山頂でおこなう集会では、参加者全員でアピールを毎年採択していますが、今年はその内容を環境悪化の現状批判だけにとどめず、発展の方向をうち出しました。「これら(環境悪化)の結果は自然がつくったものではなく、人間がつくったものです。だからこそ、この結果もまた、私たち人間の努力によって、変えることが可能なのです。利益優先の行動への批判を強め、環境の保全と経済の発展を両立させる新しいルールをつくることは可能です。この30年の歴史は、このルールをつくることが、21世紀の緊急課題の一つであることを示しました。国連も今年の国際山岳年にあたり、この方向への努力を呼びかけています」と。
また、身近な例として長野や徳島の新しい県政の誕生を紹介し、「これらの流れに連帯しつつ、自らの足元で山と自然の環境をまもる運動をいっそう発展させようではありませんか」と訴えました。
ゴミのない山域を広げる 秋の清掃登山
6月の清掃登山は、鈴鹿山系で定点的に集中した清掃活動を積み重ね、運動を広げることで社会的に大きくアピールする場として位置付けていますが、秋に実施する各会合同交流清掃登山は、県内の各山域を清掃しつつ、地元自治体と協力しながらゴミのない山域を広げていこうというとりくみです。毎年、数山岳会ごとにグループをつくり県内数カ所の山々で実施してきたとりくみも、すでに23年目を迎えています。
6月の清掃登山が終わるとすぐ、山域ごとに幹事山岳会を選び準備が始まります。山域ごとのとりくみには大いに創意が発揮されますが、基本は鈴鹿清掃登山に準じています。
昨年は、9月8日(三ケ根山、3会20人)、9月29日(高根山・山星山、9会147人)、10月27日(宇連山、6会87人)、同じく10月27日(砥神山・御堂山、3会87人)、計21会341人でとりくまれました。登山路周辺のゴミは少なくなっているものの、登山口や林道に産業廃棄物や家庭用粗大ゴミが多く棄てられているのが最近の状況です。
200人が深く学んだ講演会
こうした清掃登山のとりくみの一方、10数年ぶりに自然保護講演会を企画・開催しました。11月30日の講演会当日は、200人を超す参加者で会場をいっぱいにする盛況ぶりでした。約半数の方々からいただいたアンケートには、「とても面白かった」「自分でやれることを考えたい」「多面的に深く考えることが大切だと思う」などの感想が多く寄せられました。
講演会は、昨年の県連総会で強く要望され、開催が確認されていたものです。さらに、6月の清掃登山の社会的役割をめぐる議論からも、学習する必要がいっそう感じられていました。6月から検討を始め、テーマを「日本の森林の現在と未来---山の美しさと自然を守るために」とし、岐阜大学の伊藤栄一氏に講演をお願いしました。
自然保護担当者が事前に講師と懇談し、その魅力的な人柄にもふれ、講演会開催に向けたイメージをふくらませました。「労山愛知」「登山時報」での案内をはじめ、愛知県や名古屋市の後援、新聞の案内記事、スポーツ施設や登山用具店へのポスター・チケットなど、清掃登山で蓄積された経験と実績を生かして、諸準備をすすめました。
講演会でのアンケートに寄せられた「取り上げてほしいテーマ」に応え、今後も講演会を企画していきたいと考えています。県連盟の自然保護活動が、各山岳会の活動の前進を基礎に、いっそう発展するよう願っています。
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