気象情報の見方と使い方
冬の「移動高」は位置を知っておく
野尻英一

冬にもシベリア高気圧から分かれた移動性高気圧が日本付近によくやってきます。しかし、冬は、秋や春とはちょっと振る舞いが違い、日本海側に属する山では、高気圧の中心が通過するまでは天気が悪く、通過すると天気が好転する傾向があるのです。

まず、実例から。2月25日の天気図は、日本海から移動してきた高気圧の中心が本州の真上にやや通り過ぎたところです。天気図が朝9時ということを覚えておいてください。

この日、私は、山形宮城県境の蔵王に山スキーに出かけていました。移動性高気圧が張り出す予報にもかかわらず、朝になっても小雪がぱらつく天気で、リフト終点から軽く登った熊野岳頂上も視界なしでした。慎重に方角を確かめて、刈田岳への尾根に入るとまもなく晴れはじめました。風は強かったのですが、遠く朝日岳や月山など雄大な東北の冬山展望と、凍てついた蔵王のお釜を見下ろしての、一転快適なスキーになりました。刈田岳の祠や避難小屋はびっしり氷が張り付き、荒天の厳しさを思わせましたが、その日はやがて風も弱まり、終日、2月とは思えない好天に恵まれたのです。

冬の日本付近は、シベリアから太平洋に向かって北西の季節風が吹きます。その風が吹く間は、日本海側に属する山では天気が悪く、雲が晴れることはまずありません。冬の晴れ間は、こうした季節風が吹かない条件になったときに現れます。

風は気圧の高いほうから低いほうに吹きますから、移動性高気圧の中心がまだ山の西にあるときは、高気圧が接近してきても北西寄りの風が続くので雲は取れにくいのですが、高気圧の中心付近が山の真上を通り過ぎ東に出ると、風が弱まって晴れてくるのです。このときもまさにその通りで、私が刈田岳に向けて滑り出したのが午前10時前ですから、高気圧の中心が通過した時間にほぼ符合しています。

そんな移動性高気圧による好天のタイミングをつかむ第一のポイントは、天気図や予想天気図を見て移動性高気圧の動きをつかむこと。通常の天気予報だけでは高気圧の正確な位置はわかりませんので、天気図で確認することが大事になります。

第二は、同じく天気図で移動性高気圧の大きさや、高気圧の後ろから来る低気圧の強さや位置を確認することです。高気圧が小さい場合は、すぐに後ろからくる低気圧の影響を受けるので好天の時間は大変短く、しかもその後、天気は急変するので、こういうときに行動を起こすとかえって危険です。3月21日の天気図がその例ですが、このときの好天は3時間足らずでした。2月の例のように、高気圧が大きく安定していると好天は長続きします。

第三は、高気圧の上空に寒気がないことを、高層天気図や天気予報の解説で確かめておくことです。前回の事例もそうでしたが、高気圧の上空に寒気がある場合は、高気圧の接近とともに天気はどんどん悪化していきます。次回は冬のシベリア高気圧です。(気象予報士)

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