第12回全国登山者自然保護集会
パネルディスカッション

労山の自然保護憲章を考える

<パネラー>
福田陽一(石川・県連盟理事長)
村上悦郎(兵庫・県連盟自然保護委員長)
久米英俊(徳島・県連盟理事長)
小川潔(労山顧問、東京学芸大学助教授)
野口信彦(全国連盟事務局長)

<コーディネーター>
鈴木貫太(元全国連盟自然保護委員長)


各地方からの報告のあと、4時40分から6時10分まで、パネルディスカッションが行われました。「山岳自然保護憲章」の基本理念を築く出発点として、焦点となる課題について各地で活動する方々の意見が交わされました(一部割愛と要約。文責は編集部)。

オーバーユースの考え方
企業や行政による山岳自然破壊の問題

小川 70年代の初めは、天祖山の石灰岩開発問題(東京)にもかかわりましたが、その当時は問答無用というような時代でした。しかし現在は、開発する側の説明責任が問われる時代になっています。東京の圏央道の問題では、強制立ち退きの代執行に対する差し止め訴訟で、道路を作る行政側がきちんとした説明をしていないという理由で、1審で原告が勝訴するなど、今日では作る側・開発する側の説明責任が求められれてきています。

もう1つの状況は、私たち自身が意思決定に参加する時代になって、作る側の立場に否応なく立たされてきているということです。私たちの中で最大の争点になりうるのが山の中での便利さ・快適さを求めて○○を作れということの問題でしょう。それをどう評価したらいいでしょうか。私たちの責任が強く求められています。

また、開発問題はもうおさまったという風潮がありますが、自然を守ると称して実際には開発行為が行われていないでしょうか。先に東京湾の三番瀬というところの埋め立てが白紙撤回されましたが、いま自然再生の事業として埋め立てが次々と提案されています。このように、意識されないところで前と同じような構造が結構あるのではないでしょうか。

山のトイレ像をどう描く

久米 自然公園の山小屋では快適なエコトイレが充実してきていますが、もし自然の景観に影響を与えるのであればこれに反対したい。場所に応じたトイレがあると思います。利尻とか早池峰など環境の条件が厳しいところは、持ち帰りなどの運動を進めるのが適当だと思います。

清掃登山は企業や行政の尻拭い?! 兵庫県の実践

村上 先週、1978年以来25年間続けてきた六甲山からゴミをなくす運動の記念集会をやりました。阪神大震災以降は植樹活動も行い、ここ10年は六甲山系の湧水の水質調査も行っています。市民にも働きかける日常的な運動としていく中で会員も増え、行政との協力・共同の関係もできました。この清掃登山を山岳自然保護運動の原点と位置付け、現在も年11回の活動をしています。武庫川ダムの問題が起きて以降は、毎年6月に400人以上が集まって武庫川渓谷清掃の行事を行っています。

オーバーユース対策で、木道など登山道整備をどう考える

小川 尾瀬の木道や一定幅の道路整備などはある程度の踏み荒らしに対する効果がありますが、100人、200人と意図的に人が入り込むと、そこでもオーバーユースになりますので、利用の仕方が問題になると思います。

集団登山自粛と、公募登山などでの会員獲得の問題

野口 労山の加盟団体が主観的に自粛しても、業者による団体登山は何百倍と増えています。労山は山岳自然保護への教育的機能を持つ全国的な登山団体です。会員を増やすことが自然を守ることにつながると思います。先ほど尾瀬の話も出ましたが、車の制限がオーバーユースの解決につながるのではないでしょうか。

山岳地での利便性の向上と登山の普及の関係

村上 ヨーロッパは2本の足で登れない山が多いのですが、日本の場合はほとんど自分の足で登れるので、基本的に乗り物整備の必要はありません。上高地は日本一のオーバーユースの山になってしまいましたが、このようになる事態を防ぐためには、生態系を含めてその地域をどう維持していくのか、地域住民や登山者、自治体、研究者などの合意形成のシステムづくりが必要です。どういう状態をオーバーユースと規定するのか、科学的な手がかりがほしいと思います。

避難小屋など登山の安全性にかかわる条件整備の問題

野口 参加の要請があって、官民で組織される全国遭難対策協議会に出席していますが、登山の安全や普及の対策が不十分で、国の施策や予算がきわめて貧困なことを痛感しています。登山者の具体的な要求をまとめ、実現の運動を進める必要があります。勤労者山岳連盟はそうした責任も、もっているのではないでしょうか。

入山料の構想にこれまでなぜ反対してきたか

野口 17年前、尾瀬で1800円を徴収するという入園料構想がでましたが、当時入園料が高いほど人は来なくなるので尾瀬の自然が守られるという考え方を環境庁が示しました。労山は、国民の合意を得ないで一方的に登山に税金を課すのは、自然を享有する権利を奪うもので憲法にも違反していると、環境庁に申し入れをした経緯があります。しかし、当時の理事会でも有料化問題を議論し、もしそれが真に必要なことならば柔軟な対応も必要だという確認をしました。

鈴木 いったん入山料をとって事業化すると、人や予算を拡大していかざるを得ないような傾向が生まれ、登山者もお金をは払っているんだからと、モラルハザードが生じてくるということで入山料に反対した経緯があります。

福田 最近、白山の登山税の導入の話が地元の新聞に掲載されて、自然保護課と話したときは、県知事の思いつきではないかとの返事で、具体的には今後の課題としていました。県の自然保護課長の話では、今以上の環境管理のための登山税として考える余地があるとのことです。

尾瀬の入山料構想には、地元が反対今の登山者は地元に歓迎されているか

福田 白山では車で入り上で1泊して帰るだけなので、地元には数百円単位のお金しか落ちません。登山者が地元に金を落とすには、麓で1泊するのが唯一の方法かなと思います。

鈴木 いま山麓を通過するだけの存在だとすると、登山者は地元にあまり歓迎される状況ではありません。むしろ、し尿、排気ガス、渋滞、ごみなどのマイナス面が増えるだけになってしまいますので、地域の活性化につながる登山を検討してかななければなりません。

入山規制の問題についての考え方

野口 たとえば、いったん壊されてしまうと何百年にわたって復元できないというグレートバリアリーフ(オーストラリア・世界最大といわれるサンゴ礁)の場合は、ある区域の入域を禁止する法律がありますが、時間をかけて論議し国民投票で合意を作っています。白神の場合は、ただ自然遺産だからというだけで、林野庁から論理的な説明もなく、ガイドの思惑や利害もからんで入山禁止になりいました。労山は、地域住民、自治体、登山者などの合意が何もないという状況のもとで反対したわけです。最近でも生態系保護地域にしたからと朝日連峰の入山規制が取り沙汰され、また自然遺産に登録しようということで、知床、小笠原、琉球諸島で立ち入り規制の動きもありますが、安易な規制はさせないということが大切だと思います。

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