昔好きだった漫画作品の中に、つのだじろう氏の『五5の龍』というのがあった。プロ棋士をめざす少年たちの物語だが、なぜか山にからむエピソードが何カ所か出てくるのだ。
雄国沼もそのひとつで、会津出身の少年が行き詰まって入水を図る場面だ。沼を覆う厚い氷を破るため、スキーを付けたソリに身体を縛り付け雪面を突進する、という発想はいささか非現実的だが、遠のく意識の中、ニッコウキスゲが咲き乱れる沼を垣間見る彼の悲しみはよく理解できた。また、突然行方不明になってしまったライバルの捜索に駆けつける主人公の友情にも素直に泣けた。
さて、磐梯山の北面には他にも湖沼が多いが、これらが、明治時代の大噴火によってできた、新しいものだということはよく知られている。夏ならカヌー、釣り、冬はXCスキーやスノーシューでの雪上トレッキングと、年中アウトドアを楽しめる観光地でもある。私自身、XCスキーの常設コースのある国民休暇村あたりには毎年通っていながら、かの雄国沼はまだ見たこともなかった。
そこでこの1月、同じ会の仲間と2人で、雪の雄国沼周辺を軽く散策しようではないかということになり、彼は山スキーで、私はXCスキーを担いでツボ足というスタイルで雄子沢登山口から入山した。しかし、無雪期なら自然観察の散策路を1時間余り歩くだけというのに、降雪後間もない時期でノントレースという条件下では全くの別世界であった。とくに私の場合、XC用の板では全く用をなさず、ツボ足では、ときに腰まで埋まるほどの悪戦苦闘ぶりであった。
結局、2時間歩いても沼の辺に建つ休憩舎に辿りつくことができず、入山が遅かったこともあって、途中の樹林帯に幕営することにした。
翌朝、穏やかに晴れた空の下、さらに2時間ほどラッセルしてようやく辿りついた雄国沼は、猫魔ケ岳などに囲まれた小さな雪原で、まるで入水など考えられないところだった。私にはまるで箱庭のように可愛い、そして美しい印象を残した。
休憩舎(避難小屋)は平成12年12月に整備された新しいログハウス調の平屋で、沼側に2つのガラス戸の引き戸がある。3面の壁がガラス張りになっており、眺めがよいばかりか非常に明るい。中は40畳以上もあろうかという広さである。やはり、直接の用途としてはあくまで休憩舎なので、ベンチを壁際に設置しているだけであるが、床は板張りであり、新しいこともあって、マットを使用すれば寝泊りにも支障はない。奥に男女別の立派なトイレが作られている。水場も裏手(雄国山側)30メートル先にあると表示されている。
なお、天井の梁を利用して小さな2階部分、または上部窓から入るための踊り場状のものを作ろうとしているようだ。
我々が引き揚げようとすると、入れ替わるように山スキー、スノーシューの登山者が次々とやって来た。ホント、天候を見るに敏というか。ほとんどが沼まで、あるいは雄国山の山頂までのライトなツアーだという。彼らが踏み固めてくれたおかげで、帰りは1時間余りで道路に戻れた。あの4時間の苦闘はなんだったんだ。
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