2004年2月14日、第26回全国連盟総会が東京・晴海グランドホテルで開かれた。本総会は「『労山組織強化中期構想(案)』についての提案」「個人会員制導入についての提案」「遭対基金保全のための不動産購入にかんする提案」の議題を中心にして討議がなされた。
午後1時に開会し、議事に先だって守屋益男全国連盟会長が、今年度中に山で亡くなられた11人の会員の報告をし、総会参加者全員で登山中に亡くなられた労山内外の方々への黙祷をささげた。守屋会長は「労山創立から42年が経つが、登山人口に比べてまだまだ少ない会員にとどまっている。夢とロマンもって討論を深め、力強い一歩を踏み出せる総会にしたい」と挨拶した。
総会議長団に佐々木雅博氏(大阪)、大澤辰夫氏(埼玉)、星川和之氏(道北)を選出。また、書記に全国連盟理事の野口義夫氏と今野善伸氏、選挙管理委員に赤間弘記氏(宮城)、大塚三紀夫氏(福岡)、足立久男氏(東京)、小野冨美夫氏(全国)、後藤功一氏(全国)、遠藤悟氏(全国)、議事運営委員に川嶋高志氏、石川友好氏、香取純氏、齋藤義孝氏、野口信彦氏(いずれも全国連盟役員)を選任した。議事運営委員からは、代議員総数98人中86人の出席で総会が成立している旨の報告がなされた。
続いて、ご出席いただいた来賓の日本山岳協会の八木原國明専務理事、HAT‐J理事長の神崎忠男氏、新日本スポーツ連盟事務局長の和食昭夫氏からご挨拶をいただいた。それぞれの課題を掲げなら、共同・連携して活動し、社会にアピールしていくことの重要性をお話しいただいた。
また、文部省主催の登山研修中に子息を亡くした内藤悟・万佐代さんご夫妻が、事故原因の追究と公正な裁判を求めた10万筆の署名など、大日岳訴訟への支援を総会参加者に訴えた。
中期構想の現実的整理
討議に入り、最初に、斎藤義孝副理事長が「中期構想」「個人加盟制」「遭対基金」の3課題の提案についての趣旨説明をおこなった。
「中期構想」は、5年〜10年の組織整備を中心にした課題として、ここ数年の総会、評議会で論議されてきた。昨年の評議会への全国作業委員会報告を受けて、今回の全国理事会提案となった。
会費・遭対基金・機関誌のワンセット方式による組織運営の構想については、全国作業委員会による1年間の討議によっても明確な方向性が出なかった。その後の経過も勘案して将来の課題にしたいと報告。
法人化の方向性については、作業委員会でも合意を得ているが、近く公益法人制度の改革が予定され、どのような法人格を取得するかは、その推移を見ながら決めたい。現行制度の中では公益法人化は難しいと判断している。しかるべき時期に臨時総会を開いて法人化の移行を確認したいとした。
機関誌の「登山時報」は会員の2割が読者で、内容の改善、コストを含めて見直しをしたい。今年度から全会員に向けた無料の情報誌を年に数回出すよう計画し、今期の前半に準備をすすめ、後半から発行するようにしたいとした。
新たな組織的柱と
登山センターの構想
個人会員制については、国民に開かれた登山組織をめざしたい。団体加盟の原則で今日まで活動してきたが、これまでの制度と対立するものではなく、これと両立させながら個人会員制を導入したい。当面、全国連盟が受付窓口となるが、受け入れの条件が整えば地方連盟の所属とする。個人会員は、入会金が2000円、年間会費は8000円(5000円+遭対基金3口分)を基本をとし、議決権がない、海外登山の遭対基金の給付の対象にならないなどの制約はあるが、さまざまな会議や各種登山学校には参加はできるなどの内容にしたいと説明した。
遭対基金保全のための不動産購入の提案については、基金保全のリスクを分散させるため、一定額を不動産化し、会議や資料保管など、多目的に使える登山センターとして労山発展のための有効活用をはかりたい。物件取得のガイドラインは、土地、建物の購入価格を約1億2000万円とし、関連費用を含めて1億5000万円を超えないものとする。建物の再取得価格を25年で算定し減価償却をおこない、一般会計と遭対基金で按分して積み立てて保全をはかりたいとした。
現状をリアルに見た
新しい可能性への働きかけ
総会決議案については、野口信彦事務局長が説明をおこなった。特に、5万労山をめざすこと、遭難事故を減らすために教育活動を強めること、新たな山岳自然保護の視点と山岳自然保護憲章づくり、登山界の垣根を越えた共同の課題追求、世界の平和のための国際活動の5項目を重点的に論議したい。会員を増やす課題では、2年連続して会員減になっている。そのうち大型ハイキングクラブの脱退による減数が4分の1を占め、総じて少しずつ減っている。こうした状況を分析し、マンネリ的な活動があれば、今後脱退が広がってくる可能性があるので、全力で解決していきたい。事故を減らし安全登山を進めるには、研修会や学校、講座など実際的なメニューを提供していくことが大切と考えている。海外登山の補助金については、不公平にならないようなことを今後考えていき、登山学校も、5人以上で学校が成立するなどの措置を検討したいとした。昨年の京都での自然保護集会が成功し、今後の活動を通して自然保護憲章制定への論議を盛り上げていきたい。4月23日には、林野庁、環境省の交渉をおこなうので、各連盟からの要求もぜひ出してもらいたい。山岳4団体懇談会は、海外登山の情報共有や国際環境保護など、共同活動を進めている。労山がUAAAに加盟して以降、国際活動を強化してきたが、海外の登山団体からの反応があり、国際登山界に新しい息吹を与えている。全国理事会は、新しい陣容で5万労山の実現をめざしたいなど、報告をおこなった。
ひき続いて、石川友好財政部長から決算報告、小野冨美夫遭対基金管理委員長からも遭対基金の決算報告がされた。監査委員の小杉勝男氏と柴正夫氏からからそれぞれ、適正に処理されている旨の監査報告がなされた。2004年度の予算については、石川財政部長から予算編成の基本方針が述べられ、会員カードの発行や、会員向け情報誌発行の予算措置などの説明がされた。
中期構想についての討論
---長期の討論への決着とこれからの展望
会費のセット化の扱いについては、「ワンセット方式にすれば、たぶん会員は減るだろう。この棚上げは理事会の英断である」(大阪・滝上肇氏)との発言のように、理事会の結論を肯定するものであったが、「中期構想の先送り案で、見通しのない結論である。とにかく先に進んでほしい」(埼玉・徳重博文氏)「会員が減ったが、サービスや将来のビジョンなど、労山が何を考えているかを具体的に示してほしい」(山梨・森英雄氏)「これでOKだが、どこがいけなかったのか、全国理事会はきちっとした総括をしてほしい」(京都・花折敬司氏)など、これからの活動についての要望が出された。
法人化への準備は早められるか
法人化問題の提案については、「中期構想は長期化したが、NP0法人の検討はされたのか、理事会の提案をどう読みとってよいのか分からない。もっと具体的に整理した提案がほしい」(全国連盟専門委員)「なぜ法人格を取得するか、21世紀を見通した討論のきっかけにしていってはどうか」(道央・山本裕之氏)「全国連盟の態度は受動的過ぎないか。このままではただ遅れるだけなので、自分たちの方向性をもって行動すべき」(福岡・大塚三紀夫氏)など、法人化に対する積極的な要望が多く出された。
これについて理事会からは、社団法人などの公益法人の取得について、現状の法制度の中ではほとんど進展する見通しがない。しかし、政府の行政改革の中で、公益法人の許認可制を改め、申請すれば認めるという登録制への移行が検討されている。
05年までに大綱を決め、06年に法制化の見通しが発表されていると説明した。
機関誌の問題については、提案では今年度から全会員向けの情報紙を発行するとしているが、機関紙問題の具体的な構想についての秋田誠氏(滋賀)の質問に、斎藤副理事長は、作業委員会の方針に対する意向としての提案なので、今後「登山時報」を含めて理事会で検討し、具体化したいとした。
個人会員制の導入について討論
---いつでも、どこでも、だれでも参加できる登山運動をどうつくるか
全国連盟の個人会員制の導入は、「地方連盟つぶしになりかねない」(京都・花折敬司氏)「1国2制度のような状況になる」(兵庫・村上悦朗氏)「遭難防止では教育と山行管理が重要だが、全国連盟は教育手段をほとんど持っていない」(京都・田原裕氏)「ビジョンが不明確なままでは混乱を招く。事故を防ぐ努力ということでも、計画書を出せばいいということだけでは矛盾がある」(愛知・蜂須賀英明氏)「個人会員は相互扶助の精神に合わない、権利だけの存在にならないか」(東京・足立久雄氏)「現状の団体加盟制であっても、入会の斡旋があれば、会の受け入れ態勢はつくれる」(鹿児島・岩元進氏)など、理事会の提案に反対する立場からさまざまな意見が表明された。
受け皿のシステム整備が課題
また、「当初個人加盟は中期構想のテーマになっていなかった。いま結論を出すべきかなのか。もう少し話し合いが必要ではないか」(香川・阿部哲也氏)「画一的対応ということではなく、地方連盟の実情に応じて自主性にまかせてもいいのではないか」(大阪・滝上肇氏)「試験的な運用でモデルケースをつくって検討してみてはどうか」(岐阜・安江則和氏)「賛否両論がある。個人会員への差別的な規約条項は問題。受け皿の基盤整備が必要」(東京・尾崎由美子氏)「団体加盟制度の目的が遭難事故の防止にもあるので、教育システムが確立するならば個人加盟も現実味を帯びる」(道央・山本裕之氏)など、個人会員制についての今後の可能性や採用するに必要な課題などについての意見が述べられた。
千葉県の石川昌氏は「登山学校を5年間運営し、総合的な成果が出ている。一般の受講者も仮の会員扱いとして登山学校スタッフの会で支え、終了時には28人が入会してきた。今回提起されている個人会員もこうした教育システムの中で受け入れることができると判断した」と賛成の意志を表明した。また、兵庫県の喜多伸介氏は「今回の全国連盟の案には反対だが、県連盟として独自に個人加盟を考えていきたい」と発言した。
成功例に学んだ発展の可能性
こうした発言に対して、川島副理事長は「多くの登山者は、登山団体があることすら知らず、登山計画書の書き方も知らない方がほとんど。こういう人に計画書を書いてもらう、遭対基金に入ってもらうということだけでも遭難対策の効果があるのではないか。また、会費が安いからと会から抜けて個人会員に流れるという心配はない。会の会費が少しばかり高かったとしても、一緒に登る仲間がいて、事故があれば助けにきてくれるという費用でもあり、私はそれが高いと思わない。両立するはずだ」と答えた。
また、斎藤副理事長は、「都岳連では、個人会員制度が発足してから10年経つが、807人が入会している。14人の担当委員がいて、机上研修会、セルフレスキュー、天気図、雪中歩行などの講習会をおこなっている。講師は、個人会員の中のガイド、医師、救急救命士などスペシャリストが無償でやっており、一定の成功をおさめている」と都岳連で運用されている個人会員制の実態を紹介した。また、「何でも全国でやるということではなく、条件が整わないならば実務的な受け入れの窓口を全国連盟でやり、条件ができれば地方連盟に移管したい。団体加盟制の限界を思って個人加盟制を提案しているわけではなく、先行している都岳連の成功例があり、未組織の人への普遍的な加入方法を考えたものである。どういう形で仲間を増やしていくにしても、登山学校などの機能を充実させ、労山自身のレベルアップが求められている」として、個人会員制の進め方についての見解を述べた。
会員証の発行と意見書の
取り扱いについて
会員証の発行について「会員証はいつ決めたのか。非民主的だ」(新潟・鈴木義男氏)「今まで会員証を見たことがない。論議がない」(岡山・芦田久氏氏)「地方連盟を通さないで会員証を送るのは認められない」(京都・花折敬司氏)との意見が出たが、川島副理事長は「評議会でも報告したし、会員証は以前からあった。本来出すべきものだし、直接加盟団体に送付するのが筋」とした。
議案に対する地方連盟の意見書の取り扱いについて「地方連盟の意見を全国連盟に提出したが、資料として配布すべきだ」(新潟・鈴木義男氏)とする発言があったが、野口事務局長は「議案に対し様々な意見が寄せられたが、意見を寄せてこない地方連盟もあり、公正さに欠けると判断したため出さなかった」と釈明した。斎藤副理事長は、資料の添付がなかったことは手落ちで、今後改めるようにしていきたいと述べた。
不動産購入に関する討論
---基金の保全の仕方や、財政状況をどのように判断するか
「事務所が手狭ならば、外部の会議室等を借りればいい」(鹿児島・岩元進氏)「25年の長期にわたるリスクが大きいし、まず考えるべきは、収支構造の健全化ではないか。法人化のあとで不動産取得でも遅くはない」(福井・山崎英治氏)「会員の数が減少している現状で、不動産というハードを抱えるのは心配」(滋賀・秋田誠氏)「資産は教育学習など本来の山岳団体としての活動のために使うべきである」(新潟・鈴木義男氏)など、不動産購入に反対する意見があった。
一方で、「基本的に賛成だが、もっと安い物件はないのか。具体的に比較検討できる資料がほしい」(静岡・後藤隆徳氏)「取得した物件の余分な部屋は、賃貸として活用すべき。名義人は全国連盟理事長となっているが、不動産証券化(SPC)を検討してみてはどうか」(兵庫・村上悦朗氏)「リスク分散には賛成だが、一般会計の財政状況がよくないので、ほかに賃貸して利益を出す努力をすべき」(京都・花折啓司氏)「財産保全のための不動産購入ならば、きちんと利益を出すべき」(大阪・滝上肇氏)など、基金を保全するための不動産購入には賛成しつつ、理事会案の購入計画に対する見直しを求める意見が出された。
川島副理事長は「今回想定した物件は、いまの事務所より3倍くらい広いものだが、現在の財政状況でも何とか維持できると算定した。SPCも検討するようにしたい。不動産で利益を出すことは、公益法人の考え方に合わない。現在の家賃プラスαでまかなえる規模のものにするということになる」と考え方を述べた。
討論を終え、理事会からは、討議状況を勘案して個人会員制の導入についての提案を撤回し、あとは採決したい旨の意向が述べられた。採決に際し、議事運営委員から代議員87人の出席確認が報告された。
採決の結果「『労山組織強化中期構想(案)』についての提案」は反対0、保留10、賛成64(棄権13)で可決された。また「遭対基金保全のための不動産購入にかんする提案」は、今回の討論を踏まえ、資金計画を含めて再度検討した具体案を来年の評議会に提出するということで、反対16、保留13、賛成56(棄権2)で可決された。 5万人労山へのプラスとマイナ
スの要因をどう分析するか
総会2日目は、5万人の会員をめざす活動についての論議中心に討論が交わされた。「地区スポーツセンターからの依頼でハイキング教室を成功させている」(東京・斎藤哲範氏)「県から依頼され山腹清掃調査を引き受けた。『労山は県民のためにある』ことを訴えていきたい」(静岡・草野民義氏)「20代〜30代対象にハイキングセミナー、中高年層対象に日帰りバスハイクを実施しているが口コミで申し込みはいっぱい」(大阪・八代和朗氏)など、積極的な会員拡大に向けた活動の報告がなされた。
一方、大型ハイキングクラブが脱退した群馬県の由田久明氏や岡山県の後藤兼一氏から経緯の説明があり、ハイキング層には労山加盟のメリットがあまり感じられていないのではないか、そこに目を向けた活動が必要とされるとの指摘がなされた。
財政の規模と内容の見直しへの
強い要望
予算関連の討議となり、専従職員の給与や遭対基金事務委託費についての質問がなされた。理事会からは、計上されている金額は専従者に渡る金額ではなく、社会保険など雇用者側が負担する総額として理解してほしい。また、基金の事務委託費は、単位団体での事務などのすべての事務量を勘案して計上したもので、それが一般会計に還元されているとの説明がされた。これに対し、京都の花折敬司氏から「予算の組み方がおかしいので、組み直してほしい。基金から計上される1200万円の事務委託費を遭対基金関係の人件費分のみにしてほしい。専従事務局長が退職することでもあるので、専従職員の人件費については3人分にしてほしい」などの予算の組み替えの意見がなされた。押し詰まった日程のため討議終了の時間となり、斎藤副理事長は次年度に見直しをしたいと答えて、討議を終えた。
続いて採決に入り、総会決議案については、反対20、保留0、賛成58(棄権4)で採択。2003年度決算報告は反対0、保留14、賛成68で承認された。2004年度予算案は、反対12、保留33、賛成37で出席代議員の過半数の承認が得られず、当面3カ月の暫定予算とし、3カ月後に予算案を再審議する評議会を開くとする議長確認をおこなった。また、遭対基金決算は多数での承認と認められたが、遭対基金の予算はについては、反対16、保留43、賛成23で過半数の承認を得ず、一般会計予算と同様に評議会での再審議となった。
総会は、全国連盟の次期役員を選出し、12時過ぎすべての議事を終えて終了した。
(文責・高橋友也)
[写真キャプション]
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