「山の水場」水質・環境調査活動から学ぶ
95カ所の「水場」で大腸菌群が検出され、その多くがトイレの近く---2月の末に、東京で「山の水場・環境報告フォーラム」が開催され、山岳地の汚染の実態が報告されました。報告されたのは、昨年の6月から10月の間に、山小屋の管理人やボランティアの協力を得て、全国の「山の水場」234カ所を調べたもの。水質調査は2000年から実施していますが、昨年は水場環境も調べました。調査をよびかけ、フォーラムを開催したのは、一貫して山のトイレ問題に取り組んでいる日本トイレ協会。栃木県連盟の野木山想会は、この調査に加わり、フォーラムでは5年間の水質調査活動を発表しました。このときの発表内容をもとに、「水場の調査」活動について報告してもらいました。

七原充/菊池栄治(栃木・野木山想会)

健康と自然を求めるブームに乗って、登山者が飛躍的に増加しているが、ゴミ捨てや野外排泄によって、水場が汚され、景観を損ねている場面もまま見られるのが実状だ。急増した登山者は、特定の山・コース・時期にどっと押し寄せてオーバーユースを引き起こし、なかには山でのマナーも知らず観光気分で入山する人も少なくない。このような形での登山人口の増加は、いまや自然環境やトイレ施設の限界を超えるようになっている。

山の水は飲めないか

汗をかきかき登っているとき、山の水の美味さは格別だ。最近はガソリンより高いペットボトルの水を買うことも多くなり、「生水・自然水の文化」が薄れてきている。山では多くの湧水や泉に出会う。昔はよく手酌で飲んでいたが、この頃は遠慮する人が多い。汚れていないか、ちょっと心配だからだ。会員の間で、そんなことが話題になって、野木山想会で「水質調査班」を立ち上げて、99年9月から栃木県内の山域で調査をはじめた。

なにせ素人集団なので、『だれでもできる やさしい水のしらべ方』(河辺昌子著、合同出版)などを参考に、テストパックを使った簡易試験法で、大腸菌群、COD(化学的酸素要求量)、亜硝酸性窒素など10項目について調べた。翌年には、「山のトイレさわやか運動」(事務局・日本トイレ協会)が全国規模で水質調査活動をよびかけていることを知り、早速参加。山歩きを楽しみ、ゴミを拾いながら、調査を続けることになった。

こうして、5年間で栃木県内の山域を中心に、一部、福島県、南アルプス、北アルプス、玉原高原(群馬県)など、私たちのよく行く山、37山域72地点で、延べ159回の調査をおこなった。参加した人は延べで500人を超え、心から感謝したい。その結果は表の通りだ(水質の評価については、水道水質基準と測定値の変動を考慮して4ランクに分類した)。調査したところについて、総括的には次のようにまとめることもできる。


野木山想会の5年間の「水場」の水質調査結果 調査地点数
良好 飲料水(生)にもよい 名水尚仁沢の湧水など 21(29%)
良い 大腸菌群はいないが
CODの値に変動あり
庚申山荘の水場など 15(21%)
不安定 大腸菌群その他の値に変動あり 袈裟丸山登山口など 12(17%)
× 不良 飲料水に不適 大平山の沢水場など 24(33%)


意外に汚れている沢の水

低山ほど汚染が目立ち、大腸菌群や汚染源となる有機物が検出されている。沢水については、人の出入りの密度と相関性があり、直接の飲用には適さない。また、沢水は、天候の変化にも影響されやすく、とくに大雨などのあとは水質に変動があり不安定になる。水場近くに地下浸透式のトイレがあると、山の水は汚染されやすく、トイレ設置は処理方法にもよるが下流の方が望ましい。高山域になるほど、飲める水が残っている。

昨年は、とくに水場周辺の環境調査も実施した。これは全国でとりくまれ、それが2月のフォーラムでまとめられた。私たちは、主として栃木県内の水場22カ所について、(1)自然度・施設整備の現状 (2)野外排泄状況 (3)ゴミの散乱状況など (4)トイレの設置状況など、を目視調査した。

その結果は、湧水あるいは湧水をビニ管などで引水している場合は水質もよい(そういうところは11地点)、水場付近で野外排泄があったり、あることが推測できるところが併せて10カ所と多かった。とくに避難小屋の周辺は汚れが目立つ。飴の包紙などのゴミが散らばっている水場も少なくない(ゴミなしは9地点のみ)。なかには、登山道上にゴミ箱と吸い殻入れを置いてあるところもあって、撤去が望まれる。また、6地点で付近にトイレが設置されており、使用不能のトイレも1カ所放置されていた。

登山者にお願いしたいことは、水場の水に足を踏み入れない、周辺での排泄はしない(排尿も)、飴の包紙などの小さなゴミも持ち帰ることなどである。また、避難小屋の周辺は、排泄・ゴミ捨てが目立ち、マナーが問われている。ゴミを持ち帰るのは当然だが、携帯トイレも使おう。やむを得ない場合は、大便は埋めて、ペーパーは持ち帰っていただきたい。

ワースト山域は16地点

日本トイレ協会の4年間の集計では、136の山岳団体などが協力して延べ696地点について調査された。昨年は全国の234地点で調査され、うち95地点(40%)で大腸菌群が検出されている。ワースト山域としては、三ツ峠山(山梨県)、早池峰山、裏六甲、三嶺(徳島県)など16地点があげられ、近くのトイレが汚染源である可能性が高いと言われている。フォーラムでは、今後も定点での継続調査が大切だと強調された。

自然公園内の公衆トイレに比較すれば山岳地のトイレ整備は遅れているが、「山のトイレ」の整備改善については、アルプス山域の各県が、国、市町村、山小屋、専門家、日本トイレ協会、関係企業などとタイアップして、「登山ブームと環境の時代」にふさわしい山のトイレに向けて尽力している。99年からは国が「山岳浄化・安全対策事業費」を制度化し、国が半額、市町村も支援し、5年間で南アルプス、北アルプス、八ケ岳、富士山などのトイレ57カ所が整備された。それでも、環境配慮型のトイレを山岳地に整備するのは、費用が嵩み、メンテナンスもたいへんだ。設置したところでも、維持管理に苦労しているのが実状である。そして、全国には400を超える未整備トイレがあると言われている。

それだけに、登山者のマナー向上が望まれている。最新のトイレシステムをもってしても、トイレにゴミを捨てられてはたまらない。トイレが故障する。ペーパーを分別するだけで、処理負荷が3分の1に減り、屎尿の分解が早くなる。野外だけでなくトイレであっても、ペーパーは持ち帰ってほしい。

また、携帯トイレを使ってみると、とさほど違和感はない。利尻山、大雪山、早池峰山では利用がよびかけられているし、「立山・黒部携帯トイレネットワーク」では、昨夏から山小屋など45カ所で回収ボックスを置いて携帯トイレの販売をはじめた。野木山想会でも普及に力を入れ、これまでに約200個を販売して活用している。まずは使ってみることが、山の浄化に役に立つのではないだろうか。


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