中高年のためのネパールトレッキングピーク案内 (6)スリヤ
カトマンズから一番近い5000m峰
石原裕一郎

スリヤ峰のベースとなるゴサインクンドは古くからヒンズー教徒の聖地とされ、多数の巡礼者を迎えている。毎年、8月の満月の夜が祭日で、インドからも訪れる人がいるほどの賑わいを見せる。ゴサインクンドには、ヴィシュヌ神が眠るとされていて、他にも7つの湖があるが、煩悩の数と同じように108個の湖があるという説もある。スリヤとは、ヒンズー教の太陽神のことで、祈りを捧げるお祭りがタライ地方で行われている。

このスリヤピーク(5144メートル)は、カトマンズから3〜4日の距離でしかないが、5000メートルの高度を体験することができる。日程も少ないが、お金も少ない、しかし、5000メートルを体験したいという人には、お手頃なピークである。

カトマンズから9時間近く、トリスリバザールを経由して、登山の出発地ドゥンチェの街に向う。小型バスのチャーターは1台18000ルピー(約29000円)くらいだ。ランドクルーザーをチャーターしても同じくらいするので、メンバーやスタッフの数で使い分けたらいいだろう。ドゥンチェは、軍隊も駐屯する大きい街なので、出発の準備はここで揃ってしまう。

ドゥンチェの街はずれ、シャブルベンシに向う車道が大きく左にカーブするところを見送って直進する。ミネラルウォーターをつくっている工場を左手に過ぎて、トリスリコーラを渡る。この先の石段は、ゴルジュ帯の山腹をえぐるように付けられており、急坂になっている。スリップしないよう注意して進みたい。

樹林の急登を抜けると、支稜尾根上の一軒屋デオラリに着く。再び樹林の中に入って登ると軍隊の駐屯するディムサに着く。数軒の茶店があって、休むのにはよい。

ここから、シンゴンパ(3254メートル)まで約1時間だ。シンゴンパには、七面千手観音像やチーズ工場などの見所がある。シンゴンパから一気にゴサインクンド(4312メートル)へ上がれないこともないが、高山病になる恐れがあるので、その中間点となるラウルビナヤク(3930メートル)のロッジに泊るとよい。

ラウルビナヤクは森林限界にあるため見晴らしがよく、ロッジの部屋からはランタンリルン、ガネッシュヒマールIV峰、II峰、I峰からマナスルへと続く絶景の宿だ。翌日、ここからゴサインクンドまではゆっくり登っても4時間弱の行程なので、午前中には到着するだろう。午後は、湖畔をゆっくり散策し高度に慣れておくことを勧める。

2001年の夏に行ったときは、ゴサインクンドのロッジを朝6時に出発し、レイクサイドをラウルビナヤパスに向って歩きはじめると、左手にはゴサインクンドに流れ込む伏流水が、「聖なる水が注ぎ込む場所」として奉られている。そこは、祠となっており三つ又の鉾(トリスリ)が奉納されている。この脇から登り出す。

ひと登りで乾期なら消えてしまいそうな沼に出る。この沼を飛び石で渡って反対側から登り出すと、すり鉢状のカール地形の側壁を登るようになる。ここはジグザグの急登なのでゆっくり登ることが肝心だ。ここで焦ると高山病になりかねない。これを登りきって、一段上のカルカ(放牧地)に入り、パーンチクンド(5つ目の湖)に8時50分に到着。この先からもカルカの中を登って、ガラガラのこんもりとした山に近づいていく。最後にこのガラガラを登りきると、5基のケルンが建ち並ぶスリヤピークの山頂で、11時に到着した。

ラウルビナヤパス(4640メートル)からも山頂に登れないことはないが、ガレ場が多く、アルパイン的なルートになる。今回登った道は、レイクサイドからカルカに上がって裏へ回りこんだために、少し長く感じたが登りやすかった。ゴサインクンドには15時40分頃到着し、10時間の行動を終えた。標高差800メートルを登れたのは、シンゴンパからゴサインクンドへ上がらず、ラウルビナヤクで1泊したことで、高度順化する時間が十分とれたからであろう。

このピークのよいところは、行程のすべてで道がしっかりしていること、ロッジが整備されていること、ゴサインクンドをBCにしてピークを往復できる(ただ、冬のシーズンは、積雪があるために山頂まで届かず、時間切れのケースもあるようだ)ということだ。テントの仕度が必要なく、食事も小屋で用意してもらえることから、身軽に出発することができる。ゴサインクンドの小屋には、衛星電話があったり、レイクサイドにはヘリポートがあって心強い。なお、ゴサインクンドのロッジは、シンゴンパのロッジと経営者が同じなので、小屋の営業をシンゴンパで確認して出発したい。

このときの登山は、ロープを使わない、アイゼンを履かない、テントに泊らない内容で、初心者を対象にはじめての5000メートル峰を体験する目的で準備した。11人が参加して、全員登頂。日本から2週間、1人20万円だった。


[写真キャプション]
上:ゴサインクンドのレイクサイド。時計回りに一周して祈願する。
中:ラウルビナヤクから望むスリヤピーク。
下:快適なロッジを利用して山頂をめざす。

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