カラコルム スパンティーク(7027m)の頂へ
マウント・アンサンブル/栃木 山田崇司
<いつかはヒマラヤへ>
いつかは高所登山へ。
山登りを始めた頃からボンヤリと思っていた私の夢である。
「いつか」ではチャンスは巡ってこない。
夢は語らなければ叶わない。
そう思って「ヒマラヤに行きたい」と周りに言い始めたのは2年前のこと。
あれよあれよという間に私の言葉は人から人へと伝わり、
栃木労山の森初芳さんと出会った。
今回のカラコルムヒマラヤ・スパンティク登山隊の隊長だ。
こうして私の初めての高所登山は始まった。
<ベースキャンプへ 氷河の美しさに息をのむ>
カラコルム最美と言われるチョゴルンマ氷河の末端の町、
アランドから登山は始まった。
1日目、2日目は氷河の脇のモレーンの上を歩いた。
2日目のキャンプ地であるボロチョキャンプは標高3800メートル。
富士山を超える標高だが高山病の兆候はまだ見られない。
トレッキング中も息が切れることは無かった。
3日目には氷河に降り立ち、ベースキャンプを目指した。
圧倒的な美しさの氷河と山並み。息をするのも忘れてしまいそうな絶景だが、
隊長に教わった呼吸法を一度も忘れることなく実践し続けた。
4300メートルのベースキャンプに着いた時も殆ど息が切れることも無く
体調は万全のように感じた。
到着後もゆったりと過ごすことができたがメンバーの中には頭痛を訴える人もいた。
自分もいつ高山病の症状が出るのかと不安になりつつも熟睡することができた。
<C1で高所順応を>
翌日には荷揚げと高所順応のためにC1へと向かった。
標高5200メートル地点にあるC1への登りでは流石に息が切れ、
数分歩いては休憩の繰り返しだ。
しかし、ここでも教えてもらった呼吸法はしっかりと実践していた。
そのかいもあったのか無事C1へと辿り着く事が出来た。
山頂が見えてドキドキする気持ちを抑えて荷物を降ろして
足早にベースキャンプへと下山した。
1日休みを作ってベースキャンプでゆっくりしたことで、
かなり疲れを取る事が出来た。
<再度BCからC1に出発>
そして7月17日。
いよいよ山頂に向けて本格的に登る日がやってきた。
居心地の良いベースキャンプとはしばらくお別れだ。
C1について3時間ほど経った頃、この旅が始まってから
初めての頭痛に襲われた。
少し痛いと感じる程度だが、呼吸が浅くなっていたことに気付く。
技術的に困難な場所が少ないとはいえ、気を緩めては
けないと気が引き締まった。
<ついにきたか 高山病>
意識的に呼吸をするようになってからはかなり頭痛も治まったが
問題は次の日の朝だ。
頭痛と鼻詰まりで目が覚めた。
睡眠中は呼吸が浅くなるので頭痛で目が覚めるだろうと予想はしていたが、
鼻詰まりの原因は鼻血であった。
隊長に鼻血も高山病の症状だと聞き、ついに来たか!と思ったが、
高山病は誰でもなると聞いていたし、どう付き合うかが重要だ。
どう付き合えばいいのかは自分なりのやり方を生み出すしかないだろう。
昨日と同じく意識的に深い呼吸を繰り返していると頭痛も鼻血も治まっていった。
<C2からC3への道のり>
C2への道のりは平坦なところが多かったが息が切れないペースと
意識的な呼吸を続けた結果、特に高山病の症状はないまま辿り着く事が出来た。
しかし、またしても翌朝には頭痛と鼻血で起きることになった。
C3はいよいよ6000メートルを超える。
C2からC3への道のりでは自分のペースと呼吸の仕方は少しずつ掴めてきた。
でも、体も呼吸も次第に思い通りにいかなくなっていくのは明白だった。
C3についた時には明らかに今までとは違う空気の薄さが実感できた。
C3で迎えた朝は不思議と頭痛は起こらなかった。
<いよいよ頂上へ アタック開始>
C3から山頂への往復は12時間以上だ。
途中で高山病で動けなくなったりするのだろうか、
その状況で天候が悪化したらどうするしたらいいのだと不安ばかりよぎった。
何事も思い切り楽しむのが成功の秘訣だと自分を奮い立たせて
暗闇のC3を後にした。
出発して1時間ほどの地点でメンバーの1人がC3へ戻ることを決意する。
体が思うように動かないようだった。
<猛烈な睡魔に襲われる>
寝不足ということもあるのだろうが、
私自身山頂への登りは今までとは比べ物にならないくらい足取りが重かった。
普段なら気をつけているから絶対にしないミスだが、
外したオーバーグローブが風で飛んでいってしまった。
思考能力が落ちていると感じた一瞬だ。
高山病の症状だろう。
予備のグローブを出しながらこれではダメだ!と自分に言い聞かせる。
6800メートルを超え、あと1時間ほどで山頂だというところで
猛烈な眠気に襲われた。
歩きながら目を瞑ってしまうほどだ。
自分の意識ではどうにも出来ないくらいに眠い。
映画でしか見た事のないような光景だが、
−25℃の強風の中でも眠たくなるんだなと冷静に思ったのを覚えている。
後で考えると笑ってしまうが、何度も自分の頬を思い切り叩きながら歩いた。
<山頂に立つ>
ヨタヨタと歩きながら辿り着いた山頂での絶景は一生忘れることは無いだろう。
<次の目標は8千メートルの頂へ>
山頂からの帰路は標高を下げるごとに空気が濃くなっていくのがハッキリと分かった。
こうして初めての高所登山が終わった。
様々な本を読んで高所登山のことや高山病のことを調べたり、
隊長に教えてもらったりしていたが、自分で体験してみないと分からないことだらけだ。
この経験を生かして次は8000メートルの頂き、そして未踏峰の頂きに立ちたい。
ボンヤリとした夢ではなく、ハッキリとした目標だ。
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